昨日、藝大の学生と卒業生で組まれた「横綱トロンボーンカルテット」の演奏会に行ってきた。何年か前に室内楽の授業履修のために組んだと言うアンサンブルだ。日本トロンボーン協会のコンペティションで第一位をいただいて、その副賞として授与された、DACさんのスペースDoの無料使用権を使っての演奏会。
演奏は、とても良く練られた、奏者にとって最重量級のプログラムで、最後まで飽きる事なく、奏者達の若い熱意が伝わる素晴らしいものだった。自分の教え子の演奏会を持ち上げて、手前味噌な文章になってしまう恐れもあるが、昨晩感じたこと、考えたことを記しておきたい。
このグループは曲ごとに吹くパートを交代するスタイルであるが、それぞれトップを吹く者の音楽性が発揮されるというよりは、誰がどこを吹いても、グループとしての音楽が確立されていて、良くある学生達のアンサンブルとは、一味も二味も違う完成度を感じた。また、近年の藝大トロンボーン科の特徴だが、各人が使っている楽器やマウスピースのメーカーや仕様はバラエティに富んでいて、昨晩も全員違うメーカーの楽器を使っての、素晴らしいハーモニーを堪能させてもらった。
トロンボーンカルテットの場合、メーカーやマウスピースの仕様を揃えるという、アンサンブルの方法論も、もちろんあるが、各人が各々の感性や能力に応じて、最も合ったものを選んでいると、きちんとサウンドがハモるという見本のような、素晴らしいハーモニーだった。言い換えると、一人一人のサウンドに個性があり、芯があってよく響く音ということだ。
音楽に関して言うと、各人が、お互いを信頼し、よく聴き、そして自分の感じた音楽を、その場面場面に応じて、楽譜上の役割を理解して、柔軟に、機動的に表現すると言う、私がレッスンで言っていたと思われることは、すでに内包されていて、皆が自由に演奏しているように感じられた。
これは、プロに限らず、アンサンブル団体でメンバー固定でライブを重ねて来たグループに感じる円熟みというものかも知れない。信頼関係から生まれる自由な音楽のやり取りこそ、室内楽のライブ感であり、楽しみだと思う。
彼らの授業の時に、私がレッスンで何を言っていたか、正直言って細かな事は何も覚えていない(笑)が、今の私の頭にあること、例えば、細かで高速の3連譜が連続する曲の、音程感やハーモニーの出し方など、非常に難易度が高くて、外さずにテンポで吹ければ御の字と言うレベルではなく、ちゃんと音楽として聴かせていた。
あと、メロディを吹く時のレガートがきれいと言うことも気がついた。これは日頃の個人レッスンでもよく言っていることで、モチモチすることもなく、スムーズで滑らかに聞こえた。
音色に関しても、日頃レッスンでわりと指摘する事が多いかもしれないが、音楽と音色は表裏一体。良い音というだけでなく、音楽の色の変化を感じさせてくれた。
他にも、彼らに言った記憶は無いが、自分が日頃考えていたことが随所に見られて、教師としてやって来た自分の答え合わせをやっている気分だった。
教師は学生に対して教えるのが仕事だが、実は教師は学生から教えられるもの、と言う一般的に言われている事よりも、実は教師が学生から教えてもらう事の方が、教える事よりも、随分と多い仕事なのである、と感じた夜だった。願わくば、これからもグループでの演奏活動を重ねていって欲しい。