先日、大学で「名演奏を聴く会」と銘打って学生に対して鑑賞会を開いた。
この会の名称は日本トロンボーン協会のフェスティバルでかつて開かれていたイベントの一つの名前。惜しくも2024年に若くして亡くなってしまった協会常任理事の大塚善弘さんの主催で、毎回ゲストを呼んで、オススメの一枚と言うことで、大塚さんが人脈を駆使して借りて来られた超高級オーディオセットで、ゲストの持ち込んだレコードやCDを、様々な蘊蓄を含めて聴かせてもらえると言う、とても有意義で楽しいイベントだった。
アメリカハリウッドのスタジオミュージシャンたちの中にTommy Pedersonと言うジャズトロンボーン奏者で作曲家の方がいた。現在ではトロンボーンのエチュードや、デュエット曲集などで目にすることはあるだろう。そのPederson氏が1964年に自主制作されたと言う『All my friends are trombone players』と言うLPレコードがあって、バストロンボーンの門脇賀智志さんより私に託された盤が我が家にある。

このレコードの中身は、ドラムやギターなどを使わず、トロンボーン7人とチューバ1人だけによる8重奏で、全てPederson氏のアレンジである。以下は私の伝聞の情報なので確証はないが、1964年リリースの自主制作盤で、当時、現地ではガレージバンドが流行っており、Pederson氏の自宅ガレージで、当時のハリウッドのスタジオ界の目の眩むようなトッププレーヤーが集まって収録された、手作り感満載の音盤。今頃気がついたが、Pederson氏は演奏していない。おそらくプロデュースと収録作業に専念されていたのだろう。
選曲は、ハワイアンウェディングソングや76本のトロンボーン、日本では「線路は続くよどこまでも」として馴染みのあるアメリカ民謡など、親しみのある選曲で、ジャズのエッセンス満載。またディック・ナッシュ氏やロイド・エリオット氏などのメチャメチャ美しい歌心溢れるソロが聴ける、トロンボーン吹きならすぐさま真似したいフレーズ満載。私の大学時代は、何世代ダビングしたのかわからないようなカセットテープを先輩から借りて、更にダビングして、テープが伸びるまで聴く(笑)と言うほど、本当によく聴き込んだ。12曲の短い小品たちは、曲順を含めて私の記憶に深く刻まれており、一つの完成された組曲作品である。
その何世代もダビングされて、輪郭がボヤけて、ベールのかかった音源の記憶しかなかった私の手元にあったLPレコードだが、トロンボーン協会イベントの名演奏を聴く会のゲストにお声がけいただいた際に、過去にも先輩のどなたかが持ち込まれたとは思ったが、私の1枚はコレなので、All my friends …をかけてくださいとお願いした。
とても優しくて丁寧な大塚さんは、日芸のご出身で、もとトロンボーン奏者。私も同じ永濱先生門下ということもあり、とても良くしていただいた。大塚さんはオーディオの専門家と言うことで、私が持参したLPレコードを綺麗にクリーニングして、CDにして、オリジナルのジャケットもプリントしてくださった。もちろん今私が再生するのは、大塚さんが素晴らしい音のするオーディオセットで、丁寧にデジタル化してくださったものだ。
名演奏を聴く会で、個人で揃えることのできないほど高級なオーディオセットで初めて聴いた、PedersonのAll my friends …の、分厚いベールの取れた輪郭のはっきりした超がつく鮮烈なサウンドと、あたかも目の前で繰り広げられているかと言うようなリアルなサウンドで再生されるアンサンブルの楽しさ。そして、瑞々しい一人一人の演奏と、伝わってくる熱い音楽。自分にとってこれ以上の音楽体験は無いと思う。
このアルバムは、私たち世代のトロンボーンアンサンブルの原点であって、バイブルのようなもの。教師を続けている間は、機会を見つけて、次の世代に伝え続けようと思っている。(YouTubeで一部音源が聴けます。)