バンブーラ先生から教わったことや、エピソードの類は数知れずあるのだが、思い出したらここで紹介したい。
先生の教本に詳しく書いてあるのだが、私は学生時代に「レガート」について、ほぼ2年間実地で叩き込まれたといって良い。前にも書いたが先生のレッスンは、少し吹いては「NO!!」と言われ、先生がお手本をその都度吹いてくださり、また少し吹いては「NO!!」と言われと言う、伝統芸能を口移しで教えてくださるという、現代ではあまり見られない強烈なレッスンのスタイルだった。
一般的にトロンボーンはスライドを動かして管の長さを変えて音程を作っていくメカニズムのため、レガートの表現はとても難しいし、金管楽器の中でも機構的に苦手なことだとされている。しかしバンブーラ先生のおっしゃるトロンボーンのレガート奏法は、声楽のようであり、また弦楽器のポルタメントの混じったような、美しいレガート表現にも決して劣ることのない、芸術的で最上のレガートの表現ができるのだと、教えられてきたし、今でもそう思う。
現代の一般的で、きわめて合理的なトロンボーンのレガート奏法では、スライドを最短時間で、正確に動かして、管の長さの変化に要する時間を極力短くするように教えられる。しかしバンブーラ先生の教えは、スライドはゆっくり動かせ!と教えられて、最初は面食らった思いだった。
普通に考えればスライドを動かす時間は、短い方が音程はスムーズに変化をして、ピストン楽器やロータリーバルブ楽器のレガートに近づけると考えるところだ。だが、先生はスライドの動きの力みや、非音楽的な体の動きからくる、音に現れる不自然さを指摘されていたものだったと思う。実際には、ゆっくりと滑らかな動きで、音楽的に美しいレガートは実現可能であり、今でもそれをどうやって若い世代に伝えるのか、自分の大きな命題となっている。
現在でも先生の3巻にわたる教本が販売され、中には当然レガート習得のためのエチュードもあり、現代の合理的メソッドで育ってきた学生たちに対して、どうレッスンの中に生かして取り入れていくか、悩みどころである。