バンブーラ先生のレッスンは、一言でいうと本当に厳しいものだった。しかしその厳しさは、母国(旧東ドイツ)に対するゆるぎない誇りと、ドイツの伝統的な音楽スタイルに対する自信、そして作曲家、音楽家、演奏家、生徒に対するとても温かな愛情に裏打ちされたものだった。
毎週月曜日が私のレッスン日で、午前中から夕方まで一日中のレッスン。先生は休憩も満足に取られないので、体力的なことや、体調のことをはじめは心配したが、すぐにその圧倒的なパワーを思い知らされることになって、70過ぎまでシュターツカペレで首席を務められたのは本当だったのだと実感することになった。本当にすごい先生だった。
レッスンスタイルは、日本ではあまり馴染みのない形で、とにかく一センテンスごとに口移しのように叩き込まれる感じ。少し吹いては大声で「NO!」と言われ、そして先生が私の楽器を取られてお手本を演奏してくださり、また私がお手本を真似して吹いて「NO!!!」と言われて先生がまたお手本を吹かれるという無限ループ。今の世の中では考えられない教え方。リムスキー=コルサコフのトロンボーンコンチェルトの冒頭2小節に1時間以上かかったことがあった。しかし、今思い起こせばこの伝統芸ともいえるものを伝えるということの厳しさを教えていただいた気がする。
後年、NHKテレビで、ザハール・ブロン先生というヴァイオリンの世界的な名教師の方のドキュメンタリーが放送されて、ベルリンフィル・コンマスの樫本大進さんのレッスン風景などを拝見する機会があった。また文京シビックホールでの公開レッスンにも行き、生のレッスンを拝見することが出来た。レッスンスタイルはバンブーラ先生と全く同じスタイルで、衝撃を受けた。さらに後年、クリスチャン・リンドバーグ氏の公開レッスンを受けた時も同じスタイルでびっくり。
そのレッスンスタイルは見た目には何度も否定、ダメ出しをされているように見えるために、慣れていないと厳しすぎるような感じがするが、僕にとっては幸いバンブーラ先生のレッスンで慣れていたので、本当に内容が深く理解できる、そしてパワーをいただいた素晴らしいレッスンだった。
今の自分はレッスンを生業としているところもある訳だが、あの厳しいレッスンを真似することはなかなか至難の業。それだけのゆるぎない自信と、そして愛情と情熱。これからも精進していかなければ、と思うところである。